2007年10月11日
第1部プロローグ
桜が咲き乱れる晴れた朝。
直樹は、いつもの信号で青になるのを待っている。
新品のランドセルを重たそうに背負った小さな女の子が、直樹のすぐ横で同じように青になるのを待っていた。
直樹
『一年生かな…』
今年で社会人3年目の直樹は、ようやく会社にも慣れ、自分の夢に向かって前進している。
直樹の夢は、愛する恋人の瞳との結婚。
ごく平凡な小さな夢。
いつの日か可愛い子供にも恵まれ、温かい家庭を築きたいと毎日考えていた。
人の夢は、様々。
お金持ちになる。
有名人になる。
やりたい事をして生きる。
例えたらキリがない。
ほとんどの人間は、「夢」イコール「欲」であろう。
しかし、施設育ちの直樹にとっては、平凡な夢こそが全てであった。
家庭の温かさを知り、感じてみたい。
彼は、子供の頃から愛のある温かい家庭に憧れている。
お金なんか、どうでもいい。
生きる分だけあれば、人は幸福になれる。
それが直樹の口癖。
深呼吸をする。
朝の空気は大好きだ。
今日という日の始まりの香りがする。
横の信号がチカチカと点滅をし始めた。
目の前の赤がそろそろ青に変わる頃だ。
直樹は、雲一つない大きな青空を見上げた。
直樹は、いつもの信号で青になるのを待っている。
新品のランドセルを重たそうに背負った小さな女の子が、直樹のすぐ横で同じように青になるのを待っていた。
直樹
『一年生かな…』
今年で社会人3年目の直樹は、ようやく会社にも慣れ、自分の夢に向かって前進している。
直樹の夢は、愛する恋人の瞳との結婚。
ごく平凡な小さな夢。
いつの日か可愛い子供にも恵まれ、温かい家庭を築きたいと毎日考えていた。
人の夢は、様々。
お金持ちになる。
有名人になる。
やりたい事をして生きる。
例えたらキリがない。
ほとんどの人間は、「夢」イコール「欲」であろう。
しかし、施設育ちの直樹にとっては、平凡な夢こそが全てであった。
家庭の温かさを知り、感じてみたい。
彼は、子供の頃から愛のある温かい家庭に憧れている。
お金なんか、どうでもいい。
生きる分だけあれば、人は幸福になれる。
それが直樹の口癖。
深呼吸をする。
朝の空気は大好きだ。
今日という日の始まりの香りがする。
横の信号がチカチカと点滅をし始めた。
目の前の赤がそろそろ青に変わる頃だ。
直樹は、雲一つない大きな青空を見上げた。
2007年10月11日
事故
一瞬の出来事。
横にいた女の子が、青になるのを待ちきれず横断歩道を渡ろうとした瞬間、[それ]はやって来た。
あ…
キキッーーー!!!
車のブレーキ音だけが静寂の街に鳴り響く。
大きな青い空が見える。
雲一つない青い空が。
すぐ近くでは、小さな女の子の泣き声が聞こえる。
泣き声の方に目を向けて見ると、さっきのランドセルの女の子が道路の真ん中で泣いていた。
そして誰が僕に向かって話し掛けている。
『大丈夫ですか?』
『大丈夫ですか?』
………。
あれ?
なぜか声が出ない。
『大丈夫です』と言いたいのに、まったく声が出ない…
あれ?
身体が動かない。
どこも痛くないのに指先さえ、動かない…
今日は、会社に行けないかもな。
こんなに良い天気なのに残念だな。
たまには、休んでもいいか…
救急車のサイレンが聞こえる。
もしかしたら入院かも…
春の暖かい風が直樹を優しく包んだ。
2007年10月12日
白い部屋1
フワフワと不思議な感覚に気付く。
なんか気持ち良い。
でも、なんか不安だな。
あれ?
あの人は、誰かな?
羽の生えた美しい人が目の前にいる。
その人は、直樹を優しく抱き包む。
懐かしい…
こんな感覚は、ずっと昔にあったような。
あ!思い出した。
お母さんだ。
お母さんに抱かれてた時と同じなんだ。
安心した直樹は、その美しい人に身を委ねた。
心地良いベットで目が覚めた。
あぁ、今のは、夢か…
ここは、病院かな。
しかし、大変な事になったな。
2007年10月12日
白い部屋2
直樹の横で誰かが窓の外を見つめていた。
その[誰か]は、金髪の若い男性。
杖を持ち、真っ白なスーツを着てる。
『目が覚めましたか?』
彼は、直樹に優しく微笑んだ。
直樹
『あの…ここは、どこの病院ですか?』
『ここは、病院では、ありませんよ』
直樹
『え?どこなんですか?』
『天国です。私は、あなたの担当をする、神のリビです』
直樹
『は?天国?神様?何言ってるんですか!』
直樹は、笑いを耐え切れず吹き出した。
リビ
『あなたはね、車に轢かれそうになった少女を助けて亡くなったんですよ』
直樹
『はぁ?僕は、死んでなんか、いないですよ!』
2007年10月12日
白い部屋3
リビがさっきまで、見ていた窓に指を指した。
輝くその窓は、テレビの液晶画面のようになる。
窓の映像は、車が来た瞬間、直樹が少女を助ける為に突き飛ばした後、跳ねられてしまうシーンが映し出されていた。
直樹
『う、嘘だ!そ、そんなバカな…』
窓の映像が切り替わる。
次には、直樹の恋人である瞳を映し出す。
瞳
『なんで…なんで…死んじゃったのよ!』
瞳は、直樹の位牌に向かって泣き叫んでいた。
直樹
『瞳……』
リビ
『あなたは、死ぬ運命だったんです。あの少女を助ける運命にありました』
直樹
『運命?そ、そんな…運命なんて…』
リビ
『運命は、変える事もできましたよ。もし助ける事がなかったら、少女がこちらに来ていた事でしょう』
直樹
『…そ、それなら僕でよかったのかもしれない』
リビ
『私は、あなたが絶対に少女を助けると思ってましたよ』
直樹
『あの…瞳は、どうなるんですか?』
リビ
『瞳さんは、地上時間で4年後に結婚をして、2人の子供を産む事になっています』
直樹
『そうですか…あの、瞳は、幸福になりますか?』
リビ
『はい。あなたの事は、一生涯、忘れませんが新しい人生で幸福になりますから安心して下さい』
直樹は、ホッとすると同時に、少し淋しい気分になった。
リビ
『あなたは、この天国で次に生まれ変わる準備をしてもらいます』
直樹
『次に生まれ変わる?』
リビ
『そうです。人は、何度も生まれ変わるんですよ』
直樹
『輪廻何とかですか?』
リビ
『ハハハ〜、さぁ行きましょう』
2人は、白い部屋を後にした。
2007年10月12日
ピアノ1
白い部屋を出ると一直線の廊下があり、その脇には、沢山のドアがある。
リビは一つ一つのドアを開けて直樹に見せた。
リビ
『ここは絵の部屋です』
直樹
『絵の部屋?』
リビ
『はい。この部屋では、自由に絵を描くんですよ』
直樹
『ふ〜ん、絵は苦手ですね』
リビ
『部屋はいろいろです。次に生まれ変わった時に、ここでやる事が才能として生かされるんです』
直樹
『あの…僕は、何をしたらいいんですか?』
リビ
『それは、わかりません。あなたの心が、答えを出してくれる筈ですよ』
奥のドアから美しいピアノの音色が聞こえて来た。
リビ
『ここは、音楽の部屋です』
リビがドアを開けると、ピアノを弾く女性がいた。
その周りには、子供たちがピアノの奏でる音を聴き入っている。
ピアノの美しい音色に、直樹の心も吸い込まれた。
初めて聞く美しいメロディは、直樹に癒しを与える。
そして、ピアノを弾く女性を見ると、その音色に負けないくらい美しい人であった。
その女性は、直樹を見て優しく微笑んだ。
胸の中でドキッと鼓動が、聞こえるのを感じる。
2007年10月12日
ピアノ2
リビ
『音楽が気に入ったみたいですね』
いたずらそうにリビが、ニヤニヤしている。
直樹
『え?あ、いや、はい』
照れ臭そうに直樹は、足元に置いてあったギターを手にしてみた。
ギターを触るのは、初めてだが、なぜか初めての気がしない。
直樹
『あの人は?』
リビ
『ピアノを弾いている女性は、ミサです』
直樹
『ミサ…さん…』
ピアノを止めるとミサは、2人のところへやって来た。
ミサ
『あなたは、ギターを弾くの?』
直樹
『え?いや、初めて触りました』
ミサ
『ここへ来て初めて触れた物がギターなら、あなたは、ギターの才能がある筈ですよ』
直樹
『え!?才能なんてないですよ!足元にあったからたまたまです』
ミサ
『元々、足元にあった訳では、ないんですよ。あなたの心がギターを出したんですよ』
直樹
『そ、そうなんですか』
ミサに対して緊張気味の直樹を見たリビが言う。
リビ
『音楽の部屋で決まりですね』
少しいたずらそうに笑ってからリビは、部屋を出て行った。
直樹
『え…あ!ちょっと!』
そんな直樹を見たミサは、クスクスと笑っていた。
2007年10月13日
ミサ1
ミサのピアノを聴く事が、毎日の日課となった。
彼女は、今までに出会った事のない女性である。
直樹にとってミサの存在は、瞳との[別れ]を癒してくれていた。
ミサには、不思議な魅力がある。
人間社会の汚れを全く感じさせない人であった。
直樹
『死ぬ前は、どんな人生だったの?』
ミサ
『私?私は、まだ死んだ事がないのよ』
直樹
『え?!どういう意味?』
ミサ
『え〜とね、まだ地上に降りた事がないの』
直樹
『ええ!?君は、天国生まれなのかい?』
ミサ
『にゃははは〜私だけじゃなくて、直樹も天国生まれよ』
直樹
『え!?僕も?』
ミサ
『そうよ、人は皆、天国で生まれ、地上に降りて行くものなの。私は、まだ降りた事がないだけ』
直樹
『そうなんだ!望めば、降りる事ができるの?』
ミサ
『自分で決める事は、できないわ。全て運命が決めるのよ』
直樹
『そっか〜、僕は、いつになるのかな』
ミサ
『それは、わからない。来てすぐに降りる人もいれば、私みたいにずっとここにいる人もいるからね』
2007年10月13日
ミサ2
直樹
『君は、地上に降りたいかい?』
ミサ
『私は、運命に従うから、あまり考えた事ないかな』
直樹
『ふ〜ん』
ギターを抱えた直樹は、初めて弾いてみる。
ゆっくりと指を動かしてみた。
驚く事に、その指は、美しい音色を出し始める。
直樹の奏でる音色は、初めて弾くとは思えないものであった。
自然と手が音色をくり出す。
その音色に周りの人たちも聴き入っている。
直樹は夢中でギターを弾いた。
無我夢中で弾き終えた直樹は、自分の腕前に驚く。
ミサ
『やっとギターを弾いたわね』
直樹
『僕は、ギターなんて弾いた事ないのに…どうして?』
ミサ
『今まで知らなかっただけ。それが直樹の本当の才能なのよ』
周りにいる人たちは、直樹の素晴らしい演奏に拍手をしていた。
直樹は、照れ臭そうにしている。
そんな直樹を優しい眼差しでミサは、見つめていた。
2007年10月13日
恋
毎日が充実している。
ミサは、ピアノ。
直樹は、ギター。
音楽の部屋では、毎日2人の演奏会。
幸福だ。
心が温かい。
これが充実感て物なんだ。
天国へ来て、大きな2つの出会いができた。
ギターと…そしてミサ。
今、恋をしている。
胸がきゅ〜と締めつけられる感覚。
毎日、ミサの事で頭がいっぱいだ。
もしかして、ミサに出会う運命こそが僕の運命だったかな。
リビ
『ここにも慣れたようですね』
直樹
『はい!毎日、充実感でいっぱいです』
リビ
『ハハハ〜それは、よかったです。実は、あなたたちにお願いがありましてね』
直樹
『お願い?何ですか?』
リビ
『神々の神殿で、あなたとミサの2人で演奏会をしていただけませんか?』
直樹
『ミサと2人だけでですか?音楽ができる人は、他にも沢山いるのに?』
リビ
『はい、私たちは、愛の演奏を聴きたいのです』
直樹
『愛の演奏!?』
リビ
『あなたたち2人は、愛し合っています。その愛を音楽にして下さい』
直樹
『え!?2人?た、確かに僕は、ミサに恋してますけど…ミサは違うと思いますよ』
リビ
『いいえ。ミサもあなたと同じ気持ちです。そうですよね?ミサ』
後ろを振り返ると恥ずかしそうにしているミサは、小さくうなずいた。
2007年10月13日
神々の神殿
天国の中心にある真っ白なドーム型の建物が神殿である。
直樹とミサはドキドキしながら、その神殿に入った。
そこには、何百人もの神々が白い椅子に腰掛けて、優しい眼差しで2人を見つめている。
広い神殿の中心にステージが用意されているのが目に映った。
その真っ白なステージには、2人を待つリビが、杖にもたれながら立っている。
リビ
『皆様、この2人です』
リビが直樹とミサを紹介すると神殿は、拍手喝采の音が鳴り響いた。
直樹
『な、なんか緊張するね』
ミサ
『ほんとね』
直樹
『あの〜、余裕に見えますが…』
演奏会が始まる。
最初は、ミサのピアノ。
優しく優雅な音色。
続いて、直樹のギター。
激しくカ強い音色。
直樹もミサも心が一つになった。
神々は、2人の音色に酔いしれている。
美しい2人の心が、美しい音を奏でているのだ。
30分後、演奏が終わる。
一瞬の沈黙の後、椅子から立ち上がった神々は、激しい程の拍手喝采をした。
ミサ
『直樹、あなたを愛してる』
直樹
『僕も愛してる』
拍手喝采の中、2人は見つめ合っている。
まるで、その拍手が2人の愛を祝うようであった。
2007年10月13日
ウェディング1
リビ
『え!?結婚?』
直樹
『はい』
直樹は、真剣な顔でうなずいた。
リビ
『いいですか、結婚と言うのは、人間界の物ですよ。ここでは、前例がありませんよ』
直樹
『前例がない事をしては、いけないのですか?』
リビ
『そ、そんな事は、ないですが…』
直樹
『では、結婚をしてもいいのですよね?』
リビ
『う〜ん。その結婚は、永遠に続く訳では、ありませんよ』
直樹
『え?どういう意味ですか?』
リビ
『あなたもミサも、いつか地上に降りる日が来るのですよ。どちらか1人が、ここに残される事になっても大丈夫なんですか?』
直樹
『え?う〜ん。だ、大丈夫では、ないですが…でも結婚したいです』
リビ
『…わかりました。いくら言っても結婚するんでしょ!』
直樹
『ハハハ〜はい!そうです』
2007年10月13日
ウェディング2
数日後。
多くの人々がドレスやスーツを身に纏い、楽しそうにしている。
白いタキシードを着た直樹は、少し緊張気味だ。
『わぁ!すごく綺麗!』
その声の方に目を向けると、眩しい程の純白のウエディングドレスを身に纏ったミサがやって来た。
美しいミサは、直樹の隣に立つ。
直樹は、あまりの美しさに見とれてしまう。
リビ
『それでは、2人の結婚式を始めます。え〜と、私は、一応神ですが神父をやらせていただきます』
ドッと笑い声がこだました。
リビ
『あなたたち2人は、この愛を永遠として、結婚を誓いますか?』
直樹・ミサ
『はい』
2人は見つめ合い、キスをした。
リビ
『ちょ、ちょっと!まだキスをして下さいなんて、言ってないですよ!』
2007年10月14日
生活1
朝、目が覚めると横に眠るミサがいる。
直樹は、幸福を噛み締める。
幸福過ぎると涙が出る事を初めて知った。
ミサ
『むにゃむにゃ〜おはよ』
直樹
『おはよう』
天国にも朝昼晩と時は、流れている。
朝は、ブレックファーストの後、2人で演奏会の為に作曲。
午後は、読書をしたり、散歩をしたりと音楽以外の事をしている。
とにかくどんな時でも2人は、一緒。
2人でいる事が当たり前の生活。
それが1番の幸福である。
ミサ
『私ね、最近思うの。直樹と出会う運命だったから、今まで地上に降りる事が無かったんじゃないかって』
直樹
『運命か。なら僕が地上で女の子を助けて死んだ事も全ては、ミサに出会う為だったんだね』
ミサ
『わからない…直樹は、地上にいた方がよかった?』
直樹
『いや、ミサに出会えたんだから地上には、未練ないよ!ずっとミサと一緒にいたいよ』
ミサ
『もしかしたらずっと一緒にいれるかもしれないわ!』
直樹
『それは、地上に降りる事がないって事?』
ミサ
『ええ!だって私は、生まれて300年経つけど、ずっとここにいるもん』
直樹
『え?!ミサは300才なの?凄いお婆ちゃんなんだねッ!』
ミサ
『あら!ひどいわね!』
直樹
『でも、全然年を取ってないのは、どうして?』
ミサ
『ここは天国よ、自分が望む年になれるの』
2007年10月14日
生活2
直樹
『えー!じゃあ、僕が子供になりたいって望めば子供になるの?』
ミサ
『もちろん!私の子供になる?』
オホン!
いちゃいちゃしてる2人の後ろにリビがいた。
リビ
『…あなたたちは、いつも2人ばっかりで居て、よく飽きないものですね』
直樹
『ヤキモチですか?』
リビ
『あのねぇ…まぁいいか。実は、また2人の演奏会をしてもらいたいんですよ』
ミサ
『はい!もちろん、やります。その為に毎日、曲を作ってましたから』
リビ
『そうですか!よかったです。あの演奏会以来、神々たちは、あなたたちの大ファンなんですよ』
直樹
『なんか照れますね』
リビ
『私は、あなたたち2人を見ている方が照れてしまいます。毎日毎日いちゃいちゃと…』
ミサ
『ヤキモチですか?』
リビ
『ぐっ!あのねぇー!…とにかくお願いしますよ』
直樹・ミサ
『はい』
頭をかきながらリビは、2人の部屋を出て行った。
2007年10月14日
演奏会、そして…
演奏会の日。
朝、直樹が目覚めるとミサの姿は、なかった。
不安になりつつもやる事は山のようにある。
バタバタと一人で演奏会の準備をしていると、昼過ぎにようやくミサが戻って来た。
直樹
『どうしたの?何かあった?』
ミサ
『う、うん。ちょっとね…』
直樹
『え?何なの?』
ミサ
『…後でね。さぁ演奏会の準備しなきゃ!』
直樹
『う、うん…』
一瞬、暗い顔になったミサだが、すぐにいつもの明るい顔に戻った。
慌ただしく神々の神殿に行くと既に多くの神々が2人を待っている。
直樹
『皆様、ありがとうございます。時間の許す限り演奏をさせていただきます』
リビ
『お願いしますね』
直樹のギターから演奏会は、始まる。
続いてミサのピアノ。
いつもと違うミサのピアノ。
直樹は、すぐに気付いた。
ギターを弾きながらミサを見ると涙を流している。
だんだん、ピアノの音が外れて行く。
ミサ
『ごめんなさい、私できません』
ミサは、顔を下に向けたまま、立ち上がると走って神殿から出て行ってしまった。
直樹
『ミサ!!!』
慌ててミサを追い掛けようとするとリビがやって来て言った。
リビ
『…実は、ミサが地上へ降りる日が来たんです』
直樹
『え?そ、そんな…』
直樹は、ステージの中心で呆然としていた。
2007年10月14日
悲しみ1
部屋に戻ると真っ暗の中で、ミサが声を出して泣いている。
直樹
『ミサ…』
ミサ
『私、私、直樹と離れたくない』
直樹
『こんな急に降りる日が来るなんて…』
ミサ
『300年も来なかったのに…なぜなの?それが運命なの!?』
直樹
『地上に降りないで済む事は、できないの?』
ミサ
『あるわ…一つだけ。地獄に堕ちる事』
直樹
『そ、そんな…』
ミサ
『私、直樹と離れるくらいなら地獄に堕ちてもいい!』
直樹
『何、バカな事を言ってるんだよ』
ミサ
『だって直樹は、私の全てなのよ』
直樹
『僕だって同じだよ!いつ地上に降りるの?』
ミサ
『明日…』
直樹
『明日!?そんな…、リビのところへ行ってくるよ!』
ミサ
『無駄よ…地上へ降りるのは、運命で神様が決めてる訳じゃないのよ』
直樹
『……………』
ミサ
『私、どうしたらいいの?』
2007年10月14日
悲しみ2
しばらくの沈黙の後、直樹が口を開いた。
直樹
『明日!?そんな…、リビのところへ行ってくるよ!』
ミサ
『無駄よ…地上へ降りるのは、運命で神様が決めてる訳じゃないのよ』
直樹
『……………』
ミサ
『私、どうしたらいいの?』
しばらくの沈黙の後、直樹が口を開いた。
直樹
『心は、離れないよ。僕たちの愛は、何百年、いや何千年と永遠に続くんだからね』
ミサ
『…………』
直樹
『考えてみたら人間の人生なんて短いよ。僕が待ってる間にミサは、再び天国に戻って来れるよ』
ミサ
『私をずっと待っててくれるの?』
直樹
『もちろん!永遠でも待つよ』
2007年10月15日
別れ
ミサが地上に旅立つ日の朝。
天国の住人
『ミサ、元気出して!地上に降りる事は、素晴らしい事なんだから』
リビ
『ミサなら必ずここへ戻って来れるから大丈夫ですよ』
涙を堪えているミサは、何も話さない。
直樹
『ミサ…地上に行ったら頑張るんだよ』
ミサ
『…直樹』
直樹
『さぁ、元気出して!いつもの明るいミサになってよ!』
ミサ
『私を忘れないでね…』
直樹
『ハハハ〜忘れる訳ないよ!』
リビ
『そろそろ時間です…』
人は、地上に降りる時、神々の神殿にある【地上の部屋】へ入る事になっている。
リビは、その【地上の部屋】のドアを開けた。
直樹
『ミサ、約束して欲しい。僕たちは、何度生まれ変わっても愛し続けると』
ミサ
『もちろんよ!私は、何度生まれ変わっても直樹だけを愛し続けるわ』
ドアの向こうには、何にもない真っ白な空間が待つ。
地上部屋に入ったミサは、涙と共に光の中へ消えて行った。
涙を見せないようにしていた直樹は、ミサが消えた瞬間、声を出して泣いた。
大声をだして…
泣いた…
2007年10月15日
第2部プロローグ1
4才になる麻衣は、ピアノが大好きである。
朝から晩までピアノから離れない。
麻衣の母
『麻衣ちゃんは、大きくなったらピアニストになろうね』
麻衣
『ママ!あたち、大きくなったらお嫁ちゃんになるのよ!』
ミサが去ってからの直樹は、いつも孤独に一人で居た。
毎日弾いていたギターも、全く触ろうとしない。
そんな直樹の姿を見て、神のリビは、心配であった。
リビ
『もうあなたは、ギターを弾かないのですか?』
直樹
『…わかりません』
リビ
『あなたは、天国にいるのに、まるで地獄にいるようですね…』
直樹
『僕には、わかりました。ミサがいない天国は、僕にとって意味がないと言う事を』
リビ
『天国で学び地上で生かす。それが、ここでするべき事なんですよ』
直樹
『すみません…』
リビ
『普通は、地上で過酷な人生を経て、天国で幸福になるものなのに…あなたは、この天国で不幸な毎日を過ごしてますね』
直樹
『…………』
リビ
『それほどまでにミサへの愛が大きいんですよね』
直樹
『今の僕は、抜け殻かもしれません』
リビ
『ミサの事は、運命であって、あなたに試練を与えた訳では、ないのですよ。…でも、あなたにとっては、試練になってるようですね』
直樹
『…ハハハ。そうかもしれません』




